おうめシネマという場所

今から書き綴る物語は、東京の西の端にある青梅市の、そのまた片隅で語られている夢のお話です。

古い映画看板の街、青梅。
でも、その昔は看板だけじゃなく、3軒も映画館があったんだ。
青梅の街は山々に囲まれ、その山々には杉の木がたくさん植樹されている。
林業人口が減ってしまったこの森の木々はやせ細り、豪雨の時には土砂崩れをおこしたり、春には花粉を撒き散らしぼくらを困らせる。
この山々を守ってきた林業の人々の手助けがしたい。
そのこと自体で街をにぎやかにする何かをしたい。
映画館は無理でも映画を上映できたり、街の人がイロンナ表現で集える場所を作りたい。
青梅杉で映画を上映できるスペースと、その看板代わりにツリーハウスを街中に作っちゃおう。そこをみんなを森に誘う場所にしよう。

そんな企みからこの場所はスタートしました。

企んでたぼくらが集ったのはひみつ基地のような不思議な工房。
古い建具とスクラップと廃材が所狭しと置かれ、そこかしこに立てかけられた材木からは木の香りが漂う。薪ストーブからのぱちぱちと火のはぜる音が響き、不思議な造形物に囲まれた。そんな空間でぼくは二人の青梅の森の議論に耳を傾けていた。
もちろん、お酒を片手に・・・。

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時間軸は30 年前〜現代までをいったりきたりしながらたくさんの物語が語られた。
青梅の森が本来どれだけ豊かな可能性を秘めているかという話。
青梅の森は杉が植樹されているところが多いんだけど、杉は木目もまっすぐでやわらかく、角材のまま柱にもなり、板にして床、天井材にもなる。

何よりこの地で育った物は、やっぱりこの地で使われることに適しているんだって。
Café ころんにも使われているけれど、切り出した丸太を木材に加工する際に出る廃材もペレット燃料になったり、薪になったり。
遥か遠くから膨大なエネルギーをかけて運んできて、温暖化ガスを発生させると取り返すことができない石油や天然ガスより、省エネルギーでぼくらの家を温めてくれる材料にもなる。そして発生したCO2 はまた森で木々の成長に使われ循環する……

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でも、同時に今の林業はたくさんの問題を抱えている。
「最近の家で柱がむき出しになってる家をみたことあるかい?」
「そういえばないかも……」
「木は、どんなに工夫しても割れる。それが木の特性なんだよ。味なんだ。それを欠点という、欠陥という。だから 家を建てる時に木材は隠されてしまうようになった。人の目に触れないようになった」
「雨ざらしになった木材は腐っていくだろう。それが当たり前なんだ。だからちょっとメンテナンスしてやる。そうすれば今でもたくさんの建築物が残っているように木材は何世代にもわたって風合いを増し、残っていく。ちょっとした手間だけなんだけどね」
「木材や漆喰や、そんなものはこの国の風土にあったものなんだ。それを隠し、断熱し、呼吸の出来ない家を作り上げた。その結果、電気を使って24 時間換気するなんておかしいと思わないかい?」

人目から遠ざけられた材たちは、いつの間にか値段が安い海外の材に置き換えられてしまった。
青梅には行政機関を含めてたくさんの山主がいる。
そして、そこから請け負って(山主さん自身がやる場合もあるけれど)山の手入れをする人がいる。
でも、とても少なくなってしまったし、高齢化していて次の世代はより少なくなっている。
木材になる木の値段が下がってしまったからだそうだ。

「きちんと間伐しないといい木は育たない」

下草を刈って、枝打ちをして、間伐し、ある面積あたりの木の量を調節し、何年かしてはじめて木は木材となり林業を営む方の糧となる。 でも、それは輸入材が入ってきたり、代替品がうまれたり、イロンナことでとてもとても安い金額になってしまったそうだ。
でも、地道で数世代に渡って引き継いでいく、そしてきつい山仕事。
とても割に合わないそうだ。
だから人は減り、次世代が育たない。
そうすると森は荒れる。間伐も止まり、植林も止まり、木もまた世代交代が止まってしまう。
人の手が入らなくなった山は荒れて、木々は細り、根は浅くなり土砂崩れの原因となったり、花粉症の原因となったり。

ツリーハウス

そんな話しをしている中で
「ねぇ、ツリーハウス作ろうとしているじゃない」

そんな話題が出たんだ。
cafe ころんにはちょっとした庭がある。
そこにツリーハウスを作りたいなってずっと話していたんだ。ほんの遊び心でネ。だってツリーハウスって夢じゃない?木の上につくられた「ひみつきち」ってさ。
あっちこっち出っ張って、傾いて、でも見上げるとそこにある。子どものころからの「ひみつきち」のイメージ。
廃材集めて作っちゃおうぜって思ってたんだ。

「青梅杉使って作れないかな」

青梅駅から徒歩3 分。 ちょっと角度を変えたらすぐにみんなから見える場所。そこにツリーハウスが出来あがったら
「あれ?」
って思うよね?
「あれ?」
って思ったら近付いてみるでしょう。触ってみたくなるでしょう?登ってみたくなるでしょう?
そこが青梅杉で作られていたらどうだろう。
「そこを、青梅の森の情報ステーションにしようよ」
「このツリーハウスがどうやって何を使って作られたのかも置いておこうよ」
そんなことを話していたらcafe ころんの大家さんが提案してくれたんだ。大家さんは「桝屋糸店 」っていうお店の社長さん。創業から100年も経つ老舗で、初代の方は行商から始めた方だったそう。みんなが必要とした日用裁縫用品を奥多摩まで売り歩いていたそうだ。そんな老舗の社長さんだからこそなんだろうか。ぼく達のような青梅でなにか面白いことを始めようって言うやからを応援してくれる一風変わった人が。

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「それなら元塾だったこの教室を好きに使っていいよ」
「そこから青梅を元気にするようなことをしてくれよ」
って。
そこはころんの庭に出ると正面に立つ元塾兼大家さんの事務所。
その二階部分の半分くらい。このスペースを提供してくれたんだ。
まさにツリーハウス予定地のまん前のスペースを!粋だよね!

目をつむって想像してみる。
ツリーハウスを遠くから眺めて引き寄せられる子ども達、そして家族がいる。
遠くからも見えるツリーハウスには「青梅シネマ」って大きな看板。
ぐらぐらする不安定な階段をおっかなびっくり登ってみる。手すりにつかまり、階段に手をつき登ったツリーテラスの正面には傾いたツリーハウス。
そこからは青梅、奥多摩の山々、そして森の木々が見渡せる。
眺めてる子ども達の手が触れているのはその山々が育んだ青梅杉。
そこから入れる「青梅シネマ(cafeころん別館)」の中はまるで森のよう。
その空間で時を過ごすみんなの中には何かが残らないだろうか。

 

古い映画看板の街青梅。でも、実際に映画をみれる場所はなくなってしまった。
ぼくらには映画館を復活させるまでのことはできないけれど、そのキッカケになる場所が青梅シネマ(cafeころん別館)になればと思ってる。
そこは自主映画の上映をやりたい人がくれば映画が上映できるスペースになり、もしかしたらそのメンバーがいつかホントの映画館を作り出すコアメンバーになるかもしれない。
そして、青梅杉を使ったワークショップが行われるかもしれない。
そして多目的スペースとして作り上げた「青梅シネマ(cafeころん別館)」はある日はライブ会場に、ある日はみんなで昼寝をする部屋になったり、子ども達の遊び場になったり、イロンナワークショップが開催されたりって使う人によって、その姿を変えながら人の集う場所になればいいなって思ってる。

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